(管理人注 この引用箇所の前段に、条文 英文、和訳があり、以下は、日本国内での法整備について、検討したものです)
サイバー刑事法研究会報告書
「欧州評議会サイバー犯罪条約と我が国の対応について」 経済産業省2002年4月
「欧州評議会サイバー犯罪条約と我が国の対応について」 経済産業省2002年4月
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2.現行法で担保されていない条項の担保の方法についての試案
サイバー犯罪条約中、現行の国内法では条約上の義務を担保できていない又は担保されていない可能性が高いと考えられる条項について、これを担保するために必要な立法措置について研究会で検討を行ったところ、実体法については以下の試案が、手続法については検討の方向性、検討すべき論点の整理が得られた。
2.1. 実体法
2.1.1. 条約第6 条関係
【担保されていない行為】
スタンドアロン・コンピュータを対象とするシステム妨害(第4 条)・データ妨害(第5 条)を行うことは困難であるが、意図を問題にした場合には許可制・届出制は機能せず(「不正の意図を有してプログラムを作るものは許可を受けること」という規制は無意味)、他方、客観的要件だけで
「不正プログラム」を定義しようとすると、規制範囲が著しく広くなり過剰な規制となるること、
スタンドアロン・コンピュータを対象とするシステム妨害(第4 条)・データ妨害(第5 条)を行うことは困難であるが、意図を問題にした場合には許可制・届出制は機能せず(「不正の意図を有してプログラムを作るものは許可を受けること」という規制は無意味)、他方、客観的要件だけで
「不正プログラム」を定義しようとすると、規制範囲が著しく広くなり過剰な規制となるること、
②「不正プログラム」は、インターネットを介して伝播し、かつインターネットには国境がないことから世界的に整合性のとれた法制度の導入でなくては意味がないが、届出制という法制は例がないこと、
③国内だけに閉じた行政規制、とりわけ事前規制の導入は、国内の情報セキュリティ関係の研究機関、企業に不要・過大な負担を課し、我が国の研究開発力、産業競争力を阻害する結果をもたらすことになるので、オプションとして相当ではない。
2.1.2.条約第9 条関係
【担保されていない可能性が高い行為】
児童ポルノ画像自体をインターネットを通じて送信する行為。
[第 9 条第1 項c]
【試 案】
児童買春・児童ポルノ禁止法第2 条第3 項における「児童ポルノ」の定義規定(「写真、ビデオテープその他の物」)を改正し、児童ポルノ画像データが含まれることを明文で追加するか、又は児童ポルノデータをコンピュータ・システムを通じて送信することを処罰する規定を創設する等
の新たな刑事立法を行う。
2.1.3.条約第22 条関係
【担保されていない行為】
① 日本人が外国で通信の秘密を侵害する行為
② 日本人が外国で不正アクセス禁止法違反の行為を行う行為
【試 案】
① 刑法上の信書開封罪(刑法第133 条)と同様の犯罪類型を新設する中で、通信の秘密侵害に
係る犯罪類型を統合し、当該犯罪について国民の国外犯処罰規定を設ける。
② 不正アクセス禁止法に国民の国外犯処罰規定を新設する。
2.2.1.条約第16 条・第17 条関係
【担保されていない可能性がある手続】
捜索・差押えを実施するまでの間、蔵置されたコンピュータ・データで、滅失又は改ざんに弱いと考えられるものの迅速な保全をサービス・プロバイダに求める手続及び関連する他のプロバイダを同定するために通信記録の応急開示を求める手続を創設するという手続が、条約上は本来
想定されていると考えられる。
想定されていると考えられる。
【検討すべき論点】
条約の担保として、現行の刑事訴訟法に基づく捜索・差押えの運用を迅速に行うことによって、本条が達成しようとした効果を事実上達成できるとの解釈をとれば、立法化は不可欠ではないと考えられるが、条約の本来の趣旨に適った制度を構築しようとする場合であっても、以下の論点の検討が必要となる。
① 我が国の実務においては、諸外国に比べても令状発付が迅速に行われているとの指摘がある中で、本条の担保として捜索・差押えの迅速な実行では足りないという実情があるのか。仮に、簡易・迅速な特別な手続を設けるとしても、裁判所の命令を要するとすれば、結果的に差押えと大差ないことにならないか。
② 他方、国際司法共助を前提とした場合には、トラフィック・データの簡易な保全・開示を求められる可能性があり、その場合、捜索・差押え手続だけで対応可能か。
③ 「迅速」な保全という場合、どこまで「迅速」な対応ができるかは、事業者の技術に依存する部分が大きい。しかしながら、これを根拠として、事業者に一定の技術の保持が義務付けられるべきではないし、不可能な対応を強いることのないよう、制度設計には慎重な考慮が必要である。
2.2.2.条約第18 条関係
【担保されていない可能性が高い手続】
コンピュータ・データの提出命令手続
【検討の方向性】
対象者・関係者の権利・利益保護や、捜索・差押え処分に伴う加重な侵害を回避するという観点からは、対象者に作為を間接強制する強制処分としてのコンピュータ・データの提出命令の制度の法制化の必要性は高いと考えられる。その際、当該命令に基づく場合には、電気通信事業法等に基づく通信の秘密侵害罪等に係る事業者の法的責任が阻却されることが明確化される必要がある。
【担保されていない可能性が高い手続】
コンピュータ・データの提出命令手続
【検討の方向性】
対象者・関係者の権利・利益保護や、捜索・差押え処分に伴う加重な侵害を回避するという観点からは、対象者に作為を間接強制する強制処分としてのコンピュータ・データの提出命令の制度の法制化の必要性は高いと考えられる。その際、当該命令に基づく場合には、電気通信事業法等に基づく通信の秘密侵害罪等に係る事業者の法的責任が阻却されることが明確化される必要がある。
2.2.3.条約第19 条関係
【担保されていない可能性が高い手続】
コンピュータ・データの捜索・押収手続き
【検討の方向性】
コンピュータ・データの記録媒体に対する捜索・差押え・検証により、条約上の義務を担保することも可能とは考えられる。
しかしながら、東京地裁平成10 年2 月27 日決定に見られるように(一枚のフロッピーディスクに記録されたプロバイダーの顧客データのうち、被疑者に関するデータについては関連性を肯定しつつ、それ以外の会員に対するデータについては関連性を否定し、結論としてはフロッピー
ディスク全体について差し押さえを取り消した)、差し押さえるべきデータの量に対し、記録媒体に記録されている無関係の情報の質と量が極めて多くなる傾向があるという問題が存在することに照らせば、端的に、特定の犯罪と関連性のあるデータそのものの、捜索・差押え・検証(これらの性質を併せ持った新たな強制処分)を創設することが、不必要な権利侵害を避ける上で必要であり、特に第三者たるISP が関係する場合に全体の利益に適うと考えられる。
その際には、捜索・差押えへの協力の義務づけの検討が必要となる。この中には、捜索対象のデータの捜索、これを分離・抽出して複製を作成すること、プリントアウトすること、そして元データにつき、アクセスの禁止又は削除などの措置を採ることが含まれる。
【担保されていない可能性が高い手続】
コンピュータ・データの捜索・押収手続き
【検討の方向性】
コンピュータ・データの記録媒体に対する捜索・差押え・検証により、条約上の義務を担保することも可能とは考えられる。
しかしながら、東京地裁平成10 年2 月27 日決定に見られるように(一枚のフロッピーディスクに記録されたプロバイダーの顧客データのうち、被疑者に関するデータについては関連性を肯定しつつ、それ以外の会員に対するデータについては関連性を否定し、結論としてはフロッピー
ディスク全体について差し押さえを取り消した)、差し押さえるべきデータの量に対し、記録媒体に記録されている無関係の情報の質と量が極めて多くなる傾向があるという問題が存在することに照らせば、端的に、特定の犯罪と関連性のあるデータそのものの、捜索・差押え・検証(これらの性質を併せ持った新たな強制処分)を創設することが、不必要な権利侵害を避ける上で必要であり、特に第三者たるISP が関係する場合に全体の利益に適うと考えられる。
その際には、捜索・差押えへの協力の義務づけの検討が必要となる。この中には、捜索対象のデータの捜索、これを分離・抽出して複製を作成すること、プリントアウトすること、そして元データにつき、アクセスの禁止又は削除などの措置を採ることが含まれる。
2.2.4.条約第20 条・第21 条関係
【担保されていない可能性が高い手続】
通信記録(トラフィック・データ)のリアルタイム収集
【検討すべき論点】
(1) 通信傍受法との関係
通信記録(トラフィック・データ)のリアルタイム収集を、通信傍受の性質を有する強制処分と解した場合、通信傍受法において傍受令状が限定的に認められている範囲内でのみ許容可能との考え方が導かれるのではないか。そうであれば、リアルタイム収集については、我が国においては、コンテンツ・データ、トラフィック・データともに、通信傍受法の枠組みにしたがった傍受のみが認められるという結論となる。
【担保されていない可能性が高い手続】
通信記録(トラフィック・データ)のリアルタイム収集
【検討すべき論点】
(1) 通信傍受法との関係
通信記録(トラフィック・データ)のリアルタイム収集を、通信傍受の性質を有する強制処分と解した場合、通信傍受法において傍受令状が限定的に認められている範囲内でのみ許容可能との考え方が導かれるのではないか。そうであれば、リアルタイム収集については、我が国においては、コンテンツ・データ、トラフィック・データともに、通信傍受法の枠組みにしたがった傍受のみが認められるという結論となる。
(2) 仮に、通信記録(トラフィック・データ)のリアルタイム収集については、通信傍受法で認められている場合以外にも実施し得ると考えた場合、現行の検証制度での対応と、新たな法制度の整備という二つの方向が考えられる。
① 検証で対応する場合
・ 未だ発生していない事実について、将来犯罪が発生する蓋然性に基づいて令状を発付し、検証を行うことは、少なくとも現行法を前提とする限り難しいのではないか。
・ 仮にそれが可能だとしても、検証の対象となる通信記録(トラフィック・データ)をどのように特定するのか。例えば、犯罪が行われている蓋然性が存在すれば、特定人あてのメールのトラフィックの記録を全て記録することが可能となるのか。
② 新たな制度を創設する場合
・ そもそも、条約が前提としているコンテンツ・データとトラフィック・データの区分が技術的に容易に可能なのか。容易に可能でない場合、そのような区分を行っていないビジネスモデルに対して、当該区分を前提とした手続を適用しようとすると、事業者側に実質的に新たな技術上の義務を課すことにならないか。
・ 未だ発生していない事実について、将来犯罪が発生する蓋然性に基づいて令状を発付し、検証を行うことは、少なくとも現行法を前提とする限り難しいのではないか。
・ 仮にそれが可能だとしても、検証の対象となる通信記録(トラフィック・データ)をどのように特定するのか。例えば、犯罪が行われている蓋然性が存在すれば、特定人あてのメールのトラフィックの記録を全て記録することが可能となるのか。
② 新たな制度を創設する場合
・ そもそも、条約が前提としているコンテンツ・データとトラフィック・データの区分が技術的に容易に可能なのか。容易に可能でない場合、そのような区分を行っていないビジネスモデルに対して、当該区分を前提とした手続を適用しようとすると、事業者側に実質的に新たな技術上の義務を課すことにならないか。
・ 仮に、メールサーバに記録されるのを待ち受けてデータを取得するとすると、それは、傍受
ではなく、捜索・差押えの対象となるのではないか